[ 目録 ]
妊娠とくすり 3

 薬をのんでいるけどだいじょうぶ?

 胎児への薬の影響はとても気になりますよね。でもね、それはとっても大事なことを忘れているんですよ。
それは、母体状態の悪化なのです。なんてったって、母体は、胎児の命綱なのです。胎児は母体の中で生きているんです。母体と血と酸素を共有して。そこから、栄養をとり、命をつないでいるんです。もし、母体状態が悪化すれば、胎児にとって100%の環境の悪化になるわけで、なにも抵抗のできない胎児は苦しいだけです。だから、まずは、母体疾患っ!なのです。 


 妊娠中のかゆみ 

 アトピー性皮膚炎とか皮膚の疾患がある方みえますよね。妊娠すると、免疫系が変化するからでしょうか、今までなにもなかった方でも、皮膚がかゆくなる病態になる方が結構みえるようです。たとえば、蕁麻疹やアトピー性皮膚炎が妊娠によって起きたり悪化しやすくなるし、妊娠性痒疹とか水泡が出る妊娠性疱疹という病気もあります。 妊娠性痒疹は、妊娠初期(2〜3ケ月)にでて、夜間のかゆみが激しいそうです。この頃は、さらにつわりがあるころで、猛烈にかゆいので妊婦さんはたまりません。かゆみのストレスや、かゆみに刺激されてでてくる体内物質が、胎児に悪い影響をあたえる可能性だって否定できないと私は考えます。ところが、胎児が絶対過敏期の時期で、薬の使用には厳重な注意が必要な期間であることが多いのです。

 治療は、ステロイドの塗り薬を使用する方法があります。しかし、あるステロイド外用薬の添付文書には、「妊婦に対する安全性は確認されていないが、妊婦または妊娠している可能性がある婦人に対しては、大量または長期にわたる広範囲の使用は避けること。」などとなっています。これをみてびっくりされる方がみえるのです。「大量ってどのくらい? 安全性は確認されていないの?」ってねっ。 
 実は、これはあるステロイドをウサギで妊娠7〜18日(器官形成期)に塗布(0.5g/kg/日)したところ、胎児生存の低下とか口蓋裂が起きたと報告されているからなのです。でも、ちょっと計算してみて下さい。体重50kgの人で1日に25gもの軟膏を塗るなんてことできます? 全身に塗っても余りますよ<笑>。それを毎日なんて、あたしゃ無理っ^^。もちろん、動物と人とは代謝経路も胎児の成長もちがうので、こんな計算通りにはいきません。でも、現実に、妊婦さんにステロイド外用薬を使用して、胎児になんらかの影響はでたとか、奇形児を出産した原因がステロイドだったとかいう報告は1例もないそうです[皮膚病診療,5(3):290,1983]。このため、妊娠の全経過を通じて劇薬指定の強力なステロイド外用薬を著しく大量、長期に連用されない限り、催奇形との関係はないとされています。
 といっても、「今までに報告がないから、今後も絶対に影響はない」なんて、言い切れるものではありませんので、妊娠中は、全身に移行しにくい外用剤単剤で、治療に必要な量をなるべく短期間服用するのが原則です。この辺の治療に必要な量を、医師にきちんと判断してもらうのが、ポイントです。

 のみ薬としては、抗ヒスタミン薬であるマレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン)がつかわれることがあります。 もちろん服用せずに済めば、それに越したことはありませんが、どうにも症状がつらい…という場合は、選択されます。この薬は、町の薬局でも買えるし、家に残っているからとか安易に考えてはいけません。妊娠中の場合とくに「ほんとうに疾患に対して薬が必要なのか」判断することが、厳密になるのです。だから、きちんと医師の診察を受けて、処方してもらって下さいね。抗ヒスタミン薬の中には催奇形成が報告されているものもあります。のんでしまってから、「だいじょうぶ?」と言われても、どうしようもないのですから。


 妊娠中の喘息 

 妊娠中、喘息患者さんは、軽症例では不変もしくは軽快することが多いのですが、重症例は増悪する傾向にあります。喘息によって先天奇形の発生数が増加することはないのですが、喘息の発作に動脈血の酸素量が低下するとあぶないです。それは臍帯血の量の減少と全身・肺血管抵抗の増大が起こって、胎児の心拍出量が減少します。さらに症状が悪化すると、胎児の酸素量が低下して、低酸素血症のため胎児死亡の危険が高まるのです。こわいですねっ。

 自分もつらいけど、もっと胎児はつらいんです。だから、治療をしなくてはいけません。
 治療は、軽症では、β2刺激薬(メプチン)の吸入をおこないます。テオフィリン系の薬剤を服用させることもあります。重症では、入院管理です。酸素吸入や上記の薬剤に加えプレドニゾロンあるいは酢酸メチルプレドニゾロンなどのステロイド製剤の全身投与を行ないます。β2刺激薬の全身投与を併用することもあります。 
 喘息の薬の胎児による影響をこわがって治療を行わないと、胎児が酸素不足で苦しんでしまうことになりかねません。ご自分は、大人でがまんできるかもしれませんが、胎児はまだか弱い細胞なんです。喘息による酸素不足によるリスクと薬によるリスクなら、だんぜん喘息による酸素不足の方がこわいです。
 妊娠時の原則にしたがって、できるだけ使用経験のある薬を、単剤で治療有効量を短期間のんで、対処することをお勧めしますよ。



2002/4/28